朝の愉しみ

気が向くと少し早く家を出て、東京駅近くのDEAN&DELUCAで、大きな机を占領してコーヒーを飲む。この店のコンセプトや来て欲しいお客から一番かけ離れたようなオイラだが、老眼鏡と電子辞書でしどろもどろで英字新聞(昨日会社のゴミ箱で拾った)なんか読む。出来たて高層ビルの巨大なショーウインドーの中から、通勤のみなさんを見る。中原中也の「在りし日の歌」を思い出す。

正 午
 丸ビル風景

あゝ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
月給取の午休み、ぷらりぷらりと手を振つて
あとからあとから出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きなビルの真ッ黒い、小ッちやな小ッちやな出入口
空はひろびろ薄曇り、薄曇り、埃りも少々立つてゐる
ひよんな眼付で見上げても、眼を落としても……
なんのおのれが桜かな、桜かな桜かな
あゝ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きなビルの真ッ黒い、小ッちやな小ッちやな出入口
空吹く風にサイレンは、響き響きて消えてゆくかな